「あめちゃん袋」

  大阪のおばちゃんの必需品と言えば、『あめちゃん』である。お出かけの際は、必ずバックにこれを忍ばせておかないと、大阪のおばちゃん失格なのである。と、教えてはもらっていたのだが、半ば、冗談だと思っていた。ところがある日、義姉が主宰する朗読勉強会のお仲間に軽い気持ちで尋ねたところ、なんと、全員がちゃ〜んとバックの中に『あめちゃん』を持っていらっしゃるではないか。驚く私に、皆さんは“当然”という顔をされていた。

 さて、この必需品は、「あめちゃん食べる?」という言葉と共におばちゃんのバックから取り出されては、人の手から手へと渡る。その途端、友だち同士も見知らぬ者同士も、同じように会話が始まってしまうから不思議ふしぎ。そう、『あめちゃん』は、小さなコミュニケーショングッズなのである。

 ちなみに、この『あめちゃん』とは、『ちゃん』が付いてはいるものの、ただの飴のことである。ここ大阪では、何故か子どもも若者もお年寄りもみんな『あめちゃん』と呼ぶ。ここで驚くと、「ほな、福岡ではどないいうのん?」なんて聞かれてしまい、グッと言葉に詰まりながら、「飴は・・・あめ」と答えて、相手をがっかりさせてしまう私。気が付けば、食い倒れの町大阪では、油揚げも豆もいなり寿司も感謝と敬愛の念を込めて、『お揚げさん』『お豆さん』『お稲荷さん』と敬称付きで呼ばれているのでした。

 コミュニケーションと言えば、大阪では各町に元気な商店街が生きている。これも、ひょっとしたら黙ったまま買い物ができない『しゃべりぃ』のおばちゃんたちの功績かも、と感心しているのだが、なんと府内には四百もの商店街が息づいているらしい。できればひとつひとつ探訪したいくらいなのだが、目下のお気に入りは、日本一長い商店街と言われる『天神橋筋商店街』である。 koki de gogo ツアーの田川さんとの買い出しもここだったし、まさじさんの北浜「チャクラ」でのライブの時にも歩いてみた。天神橋一丁目から六丁目まで続く商店街を歩いて行くと、地下鉄の「扇町」「南森町」「天神橋六丁目」と JR の「天満」という、四つもの駅を通り過ぎることになるのだから、驚きだ。

 大きな声でしゃべり、日傘を差したちゃりで行き交う大阪のおばちゃんの風情を味わいながら、テーラー、刃物、刀剣、呉服、折箱、昆布屋などを覗き、立ち呑屋、餃子屋、寿司屋が並ぶ路地から路地をぶらぶら・・・う〜ん、これこそ浪速散策の醍醐味ではないか。おまけにこの商店街は夏の天神祭りで有名な天満宮の参道( ! )でもあり、近々『天満・天神 繁盛亭』という上方落語の定席もできるそうで、本当に愉しい町なのだ。

 恭蔵さんとまさじさんの唄『コミュニケーション』は、大阪の唄という訳ではないが、人と人がちゃんと向き合うことのできないこの時世にあって、実に交流上手な人の町、大阪。今年 2 月、堺のライブに来てくれた芝辻さんが、“りっぱな大阪のおばちゃんになれるよう”に作ってくださった『あめちゃん袋』は、以来、いつも私のバックの中にある。他の町でも「あめちゃん食べる?」と、大阪流コミュニケーションを広めようと、密かに思っているのである。

 


いつも賑やかな天神橋筋商店街



商店街と対照的に静かな大阪天満宮


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